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~輪ゴム一本でも傘のまちがいを防止できる~

梅雨シーズン到来、既に沖縄は梅雨入りですが、関東はいつごろでしょうか。
今日は降りそうもないと思っていて、突然大雨に見舞われてしまう、あるいは出がけから大雨で、今日は1日中雨かと思って、ちょっと寄り道して飲んでいると、店を出る頃には、すっかり雨があがっていたりと…。

そんなとき、ほろ酔い気分で、傘のことなどすっかり忘れ、あるいは自分の傘と人様の傘を間違えてしまったり。
これは、本人も困るし、他人様も迷惑だし、店側もほんとうに困ります。

だから、 お気に入りの傘を持っているときには、店頭にある傘立てに無造作に入れる気にはなれません。
もしかしたら誰かが間違えてしまうかも…そんな不安があるからです。

安心して、店内で過ごしてもらうために、ちょっとした工夫で問題を解消しているケースを御紹介しましょう。
「この人から買いたいと思わせるプロの接客」p28より抜粋

 

好評!この人から買いたいと思わせる プロの接客 19刷

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東京の上野・御徒町界隈は焼肉専門店がたくさんあります 。
その近辺に詳しい知人が、行きつけの店に案内してくれました。
彼いわく、この辺ではここが一番おいしいとのこと。
しかし、そのことばを疑ってしまうほど、しもたや風の店なのです。
最近は焼き肉店もおしゃれな店構えの店舗が増えていますが、そのようなイメージとはまったく縁がない店でした。
店の前に大きなかめがドーンと置かれていて、男物の傘がいっぱい入っています。どうやらこれが傘立てのようです。

私は「困ったな」と思いました。
その日は出かけるときに大雨が降っていたので大ぶりの傘をもっていました。それは深い緑色で、私のお気に入りの傘です。
ところが大きさや色からして、かめの中に入っている男物の傘と同じように見えます。きっと誰かが間違えるだろうと心配になりました。

私が躊躇していると、店の奥から、女主人らしき人が出てきて、「いらっしゃいませ、傘をお預かりしましょう。皆さんのをごいっしょにしておきますから」と私たちの傘を手に取り、すばやく輪ゴムでひとまとめにして、かめに入れました。
不安を見透かされたようで、私は「へぇー」と驚いて彼女の顔を見ました。
すると彼女は「間違えるお客様が多いのですよ。鍵つきの傘立てではこの店に合わないし。これなら忘れて帰ることもないですからね」。

かめの中をよく見ると、ほかの傘も輪ゴムでまとめられています。
お客様が帰るときには必ず、彼女が見送りに出て傘の行方を見守っているのです。
ほろ酔い気分のお客様たちは、かめの前で一瞬ためらい、自分のものと思われる傘を抜き取ろうとします。
すると輪ゴムでくくられているので、他の傘も一緒に出てきます。
「あれっ」と思っていると、仲間が「それじゃないよ、こっちだろう」と言って、別のほうを指します。
そうやって仲間同士が自分の傘を確認するので、他のグループの傘と間違えることがありません。

お客様に番号札を渡すわけではありませんが、たった1本の輪ゴムでお客様同士が傘を間違えたという不快な思いをせずにすむのです。

知人のいうとおり、焼肉もおいしかったのですが、こんな気配りのできる女主人がいる店なら、なるほどファンも多いはずだと納得しました。(完)
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好評!この人から買いたいと思わせる プロの接客 19刷